cocorozasi.

- shumi wo mitsukeru tabi -
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Epilogue。
自室の薄汚れた鉛色の壁。
 その壁色の空が窓枠に切り取られ、部屋に僅かな光が差し込む。部屋の明かりを点けていない為にどんよりとした曇り空でも十分な明るさを注いでくれる。
 カーテンの予算は食費に化けたか、と窓枠を目でなぞっていく。
 梅雨の時期になってからは起きてすぐ窓を開けるのが日課になり、いつも通りに窓を開けコーヒーを沸かす。
 毎朝コーヒーは飲むがこれと言ってこだわりもなく粉は市販の物だ。メーカーにも、えり好みはない。
 強いて言えばセールで一番安い物を選ぶか、セールでないならグラムと値段を比較して割りの良い物を選ぶ。他人とそんな事を比べた事がないのでわからない。
 ぼんやりしながら鏡で申し訳ない程度に寝癖を直し顔を洗う。
 コーヒーをすすった後に着替え始めネクタイを姿見で見ながら整える。姿見の自分はお世辞にもお洒落な装いも無く、中肉中背。どちらかと言えば栄養が足りてないんじゃないかと人にからかわれる事が多い。
 姿見から離れ、家に帰って来ても開ける事のない仕事鞄の中身を一応確認してから家を出る。
 傘は――いらないと思うが雨に降られ、鞄の中身がやられた事を思い出して手に取った。
 いつもの道をいつもの様にいつも通り歩いてバス停へ向かう。小学生の通学班を追い抜かし自転車に追い越される、そんな変哲も無い朝。
 この時間にバスを利用するのは自分と茶髪混じりのOLのみだ。

―― 一度寝坊して乗った時は女子高生が多かったので酷く肩身の狭い思いをした。あんな思いをする位なら早い時間に出発してゆっくりとバスに揺られた方がまだマシだ ――

 OLとは顔見知り程度に数回言葉を交わした事はあるがそれはたまにで挨拶した後は無言が多い。
 OLは朝が苦手なのかいつも不服そうな顔をしているのでこちらを威嚇かあるいは避けているんじゃないだろうかという心配までしたものだ。まぁ威嚇も避けられても困る事はないんだけど。
 結局いつもと何ら変わらぬ歩幅で普段通りの時間に着いたがOLの姿は無く一人の女性がベンチに腰掛けている。一目でOLでないとわかったのは一際目を引く黒髪。ストレートで肩甲骨まで伸びている。
 OLは茶髪混じりでショートが印象的だったはず。体格で言えば少々ベンチの女性の方が小柄だろうか、座って俯いているのではっきりとはわからないが華奢なのは良くわかる。色白で血色が良く、少女ではないかと疑ってしまった。
 少女 ―― なのか女性なのかわかり兼ねる ―― に気を取られているうちに歩みは進み、ベンチの手前まで来た。素知らぬ顔で道路側を向いておく。
 触らぬ神に祟り無し…。
 だが、微かにすすり泣きが聞こえてくる。ベンチの女性のものだろうと思い出来るだけ顔を動かさず目線で探る様に女性を観察すると少しばかり肩が揺れているのがわかった。やはりベンチの女性が泣いている様だ。
 そのまま視線を落としていき、左腕の時計を見やる。
 現在七時三十四分二十八秒。
 バスが来るのは四十五分なので約十一分の有余。

―― 仕事に行く。もちろん。
 仕事に行く。にはバスに乗る。もちろん。
 しかし、正直に言えば興味はある。
 余程の不人情でなければ気になるだろう。そう、気になって仕方ないのだ。
 例えば。そう例えばだ。
 この女性に話しかけたとして、短時間で解放してくれるのか。まさかこちらから話しかけておきながら「バスが来たので。はい、さようなら」というわけにもいかないだろう。でもこの状況下で話しかけないのも非人道的なイメージがある。とは言えど、ここで話しかけるのもまた、非日常的だ。
 人間とは…
 好奇心や退屈には勝てないものなのです。 ――

「大丈夫ですか?」
 返答は無い。負けずに問う。
「どこか具合でも悪いんですか?」
 やはり返答は無い。意地になって再び聞いてみる。
「誰か、呼びましょうか」
 女性は俯いたまま肩を小刻みに揺らす。次に何と声を掛ければ良いのか考えているうちになんとなく勝手に気まずい空気を感じる。
 妙な汗が頬を伝う。時間の経過に異常をきたしている。
 ハンカチをポケットから引き抜き、額を抑える。
 何度か額をさすり、ハンカチを見る。女性を見る。もう一度ハンカチを見る。もう一度泣いている女性を見る。
 頬に当てる前に気付けば良かったとどくつきながら、ハンカチを俯いている女性の視線へそっと入れてみると鷲掴みに目へ押し当てた。両手でハンカチの上から顔を押さえ、さっきよりも声を上げて泣き出す。
 いつの間にか時間になり視界の奥にバスが見え始めてしまったので。
「ハンカチはどうぞ……えっと、その……平日のこの時間なら、ここにいますから……」
 焦ってしどろもどろになり本当は返して欲しいそうな言い草になってしまった事に、胸中で自分を呪いつつ体を道路へ向き直そうとした時 ――。
 女性は半ば飛びつく様にこちらの首に腕を回し抱き付く。あまりにも突然の行動に振り放すどころか声も出ず、視界の奥から手前へバスが通り過ぎて行くのだけを簡潔に理解する。
「あの……ごめんなさい」
 バスに乗る事にだろう。唐突に女が口を開いた。更に女が続ける。
「もう少し……もう少しだけお願い、今だけだから」
 何が今だけなのか。その言葉にふと冷静さを取り戻し、沸々と沸き起こる怒りを感じ鼻から息を吸い口から吐いた。鼻腔をくすぐる女の髪の匂いに心地良さを感じてしまったのは不意打ちであり決して下心という不純なものではない。そう自分に言い聞かせてしまった時点で自分の負けなんだと自覚する。
 激しい動悸を抑えながら女の肩に手をやり自分からゆっくりと引き離す。女は涙を流し恥じらう事を忘れてしまったかの様に鼻水を垂らしながら声を上げた。
「私を……」
 しゃくりあげる。
「……少しの間」
 途切れ途切れだがハッキリと。
「置いて下さい」
 時が止まった。
 数時間位。
 否、一瞬だったのかもしれないし数分だったのかもしれないし数時間だったのかもしれない。
 いくら理由を聞いても彼女は答えようとせず、唯バサバサと首を横に振るだけだ。これでは埒が明かないと悟り腰を上げると彼女も立ち上がり、歩いて来た方に足を進めると彼女も無言のままついて来る。何度か歩幅を広げてみたが、上着の裾をひっぱる様に彼女が持ち、不思議な距離を保ったまま家に向かって歩き出す。

―― 会社には…。
 風邪でいいか。 ――

今度は自分が俯くどころかうな垂れていただろう。
| 「24℃。」 | 00:28 | comments(0) | - |

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